これまで、全国にある国立の工業高専について、テーマごとにご紹介してきました。
一方、各学校の歴史や特徴を深堀することはほとんどありませんでしたが、どのような学校なのかをより詳しく知りたいという方もいるでしょう。
そこで、高専を紹介する記事を不定期シリーズとしてお届けしたいと思います。
第1回の今回は、北海道にある苫小牧高専です。
基本情報
学校名 | 苫小牧工業高等専門学校 |
所在地 | 北海道苫小牧市字錦岡443番地 |
ホームページ | https://www.tomakomai-ct.ac.jp/ |
設立年度 | 1964(昭和39)年4月1日 |
設置学科 | 創造工学科 機械系、都市・環境系、応用化学・生物系、電気電子系、情報科学・工学系の5つの系 |
本科定員 | 1学年あたり200人 |
設置専攻科 | 創造工学専攻 機械系、都市・環境系、応用化学・生物系、情報エレクトロニクス系の4つの系 |
専攻科定員 | 1学年あたり20人 |
沿革
苫小牧高専は、北海道苫小牧市に1964(昭和39)年4月に設置された、国立の工業高等専門学校です。
北海道では函館・旭川に続く3校目の高専となります。
当初は機械工学科、電気工学科、工業化学科の3つの学科が設置されました。
その後、1969(昭和44)年には土木工学科が、さらに1990(平成2)年には情報工学科が設置され、しばらくは5つの学科を有していました。
学科の名称変更などは行われていましたが、2016(平成28)年には、5学科をまとめる形で創造工学科への改組が行われました。
その結果、現在に至るまで、創造工学科のみを設置する形となっています。
苫小牧市はどんなところ?
苫小牧市は北海道の中南部に位置し、太平洋に面しています。
札幌市(苫小牧駅から札幌駅まではJRの特急利用で約50分、JRの普通+快速で約1時間)や新千歳空港(苫小牧駅からJR利用で30分弱)にも比較的近く、また北海道の中では気候も比較的穏やかな地域であることから、工業都市としての性格を有しています。
また、北海道と本州を結ぶ陸路はない(鉄道はある)ことから、北海道では船による輸送が非常に重要であり、苫小牧港はその玄関口としても大きな役割を果たしています。
その結果、北海道内における苫小牧市の重要性は年々高まっており、現在では北海道内で4番目に人口の多い市となっています。
市内にはいくつもの工業団地が点在し、多くの上場企業や関連企業が苫小牧市内に拠点を置いています。
これらの企業から人材に対する需要が一定数あり、苫小牧市内の学校から地元に立地する企業に就職することも可能な状況にあります。
一方で、他の北海道の都市に比べると観光地が多いとはいえず、多くの観光客が訪れるようなスポットはあまりありません。
なお、苫小牧高専は苫小牧駅からバスに乗って約40分という場所にあります。
北海道にある学校らしく敷地は広大で133,251㎡を誇り、国立高専の中では2番目に広いとされます。
(ちなみに、敷地面積が最も広いとされているのは、なぜか沖縄高専!!)
本科生の5年間の課程
創造工学科として毎年200人の学生が入学してきますが、1年生では系に分かれず、すべての学生で学級編成を行います。
2年生からは5つの系に分かれて、専門分野を学ぶこととなります。
この時、本人の希望と1年生での学業成績をもとに、各系40人程度になるよう配属が決定します。
また4年生からは、それぞれの系の中でコースが設けられ、より細分化されていきます。
1年 | 2年 | 3年 | 4年 | 5年 |
---|---|---|---|---|
系に分かれない | 機械系 | 機械コース | ||
フロンティアコース | ||||
都市・環境系 | 都市・環境コース | |||
フロンティアコース | ||||
応用化学・生物系 | 機能材料コース | |||
食品・バイオコース | ||||
フロンティアコース | ||||
電気電子系 | 電気電子コース | |||
フロンティアコース | ||||
情報科学・工学系 | 情報科学・工学コース | |||
フロンティアコース |
すべての系にフロンティアコースが設けられていますが、これはどの系からも選択できる共通コースという位置づけです。
「次世代の起業人材」を目指して、各系の専門工学を学びながら、経営学分野の基礎を習得することができます。
また、工学と経営やデザイン、医療・福祉などをつなぐ研究ができます。
ここまではっきりと、工学以外の分野の研究を取り入れることを明らかにする国立高専は、非常に珍しいといえます。
一方、フロンティアコース以外のコースは、専門コースという位置づけとなっており、「次世代の技術系人材」を目指すものとされています。
こちらは従来からの高専の教育を行っているといえ、企業内での技術者のリーダーとなる人材を育成するイメージです。
学生情報
学生数(男女別)
学校要覧2024によれば、学生の人数や男女比は以下のようになっています。
1年 | |||
男子 | 女子 | 合計 | |
1組 | 29 | 11 | 40 |
2組 | 30 | 11 | 41 |
3組 | 30 | 11 | 41 |
4組 | 30 | 11 | 41 |
5組 | 29 | 11 | 40 |
2年 | 3年 | |||||
男子 | 女子 | 合計 | 男子 | 女子 | 合計 | |
機械系 | 34 | 9 | 43 | 40 | 5 | 45 |
都市・環境系 | 26 | 6 | 32 | 34 | 8 | 42 |
応用化学・生物系 | 20 | 22 | 42 | 25 | 20 | 45 |
電気電子系 | 37 | 7 | 44 | 37 | 7 | 44 |
情報科学・工学系 | 35 | 8 | 43 | 30 | 8 | 38 |
4年 | 5年 | |||||
男子 | 女子 | 合計 | 男子 | 女子 | 合計 | |
機械系 | 39 | 3 | 42 | 34 | 7 | 41 |
都市・環境系 | 34 | 9 | 43 | 33 | 9 | 42 |
応用化学・生物系 | 24 | 12 | 36 | 32 | 9 | 41 |
電気電子系 | 26 | 4 | 30 | 21 | 2 | 23 |
情報科学・工学系 | 35 | 3 | 38 | 34 | 3 | 37 |
下の学年になるほど、女子学生の占める割合が大きくなっていることが分かります。
また2年生以降で系に分かれると、男女比に大きな違いが生じています。
中でも応用化学・生物系は、どの学年でも女子の比率が一番高くなっています。
学生出身地
学校要覧2024によれば、本科生994人のうち北海道出身者が978人、北海道外出身者が11人、外国出身者が5人となっています。
高専に入学してくる学生には都道府県外出身者も多くいる傾向にありますが、苫小牧高専の場合は道外出身者の割合が低く、北海道出身者が多くを占めています。
学生寮の入寮者
男子 | 女子 | 合計 | |
1年 | 50 | 16 | 66 |
2年 | 47 | 16 | 63 |
3年 | 47 | 18 | 65 |
4年 | 42 | 8 | 50 |
5年 | 38 | 11 | 49 |
合計 | 224 | 69 | 293 |
北海道内出身者が多い一方で、北海道内出身者でも自宅から通学できる学生は多くないことから、どの学年も3割程度は学生寮に入寮しています。
令和2年度からは、従来男子寮として使用していた建物の一部を女子寮として運用するなど、女子学生の増加傾向に対応しています。
入試情報
推薦入試と一般入試
推薦入試の募集人員は、定員の50%程度となっています。
推薦入試の出願基準として、「学習点(9教科5段階評定を1年生と2年生は2倍、3年生は3倍した数の合計)が252以上」と定められています。
内申点の満点45のうち、平均して36以上(つまりオール4以上)が最低限の目標となります。
推薦入試の出願基準 | 学習点(9教科5段階評定を1年生と2年生は2倍、3年生は3倍した数の合計)が252以上 |
一般入試では、理科・数学・英語各200点、国語・社会各100点の配点となっています。
また調査書は合計で210点となっており、学科試験のウエイトが比較的大きくなっています。
学力試験の科目と配点 | ||||
理科 | 英語 | 数学 | 国語 | 社会 |
200 | 200 | 200 | 100 | 100 |
調査書の科目と配点 | ||||||||
国語 | 社会 | 数学 | 理科 | 英語 | 技術・家庭 | 音楽 | 美術 | 保健体育 |
30 | 30 | 30 | 30 | 30 | 15 | 15 | 15 | 15 |
入学志願者数
苫小牧高専は創造工学科1学科であり、入学定員は200人とされています。
ここ5年間の入学志願者数は、以下のように推移しています。
2019(平成31)年 | 411人 |
2020(令和2)年 | 384人 |
2021(令和3)年 | 345人 |
2022(令和4)年 | 365人 |
2023(令和5)年 | 348人 |
2024(令和6)年 | 363人 |
ここ数年は、毎年350人~360人程度の志願者を集めており、入試における倍率は1.8倍程度となっています。
卒業後の進路
一般的に、高専の卒業生の半数は就職、半数は進学するといわれますが、学校によってその比率には違いがあります。
苫小牧高専の場合、過去5年間の卒業生の進路は以下のようになっています。
道内就職 | 道外就職 | 進学 | その他 | |
2020(令和2)年3月 | 47 | 78 | 49 | 5 |
2021(令和3)年3月 | 41 | 66 | 75 | 4 |
2022(令和4)年3月 | 40 | 77 | 60 | 1 |
2023(令和5)年3月 | 41 | 61 | 68 | 6 |
2024(令和6)年3月 | 44 | 80 | 60 | 5 |
例年、約6割程度の卒業生が就職し、約3割〜4割程度の卒業生が進学していることが分かります。
就職
高専には、毎年多くの企業から求人が寄せられています。
苫小牧高専の場合、過去5年間の求人数は以下のようになっています。
求人数 | 求人会社数 | |
2019(令和元)年度 | 3,510 | 2,926 |
2020(令和2)年度 | 3,790 | 3,160 |
2021(令和3)年度 | 3,226 | 2,689 |
2022(令和4)年度 | 2,815 | 2,348 |
2023(令和5)年度 | 2,856 | 2,382 |
実際に就職する学生は例年100人〜120人程度ですが、学校に寄せられる求人の数はその20倍以上となっています。
これは、苫小牧高専に限った話ではなく、全国の高専では膨大な数の求人があり、学生は非常に恵まれた環境にあるということができます。
進学
苫小牧高専を卒業後に進学する学生の進学先は、以下のようになっています。
2020(令和2)年3月 | 2021(令和3)年3月 | 2022(令和4)年3月 | 2023(令和5)年3月 | 2024(令和6)年3月 | |
苫小牧高専専攻科 | 15 | 30 | 21 | 33 | 26 |
長岡技術科学大学 | 10 | 5 | 4 | 10 | 11 |
豊橋技術科学大学 | 9 | 4 | 13 | 7 | 6 |
北海道大学 | 1 | 4 | 2 | 2 | 2 |
室蘭工業大学 | 5 | 9 | 7 | 4 | 3 |
北見工業大学 | 0 | 3 | 2 | 1 | 2 |
その他 | 9 | 20 | 11 | 11 | 11 |
最も進学者が多いのは苫小牧高専専攻科であり、進学者の3〜4割程度を占めます。
そのほかでは、長岡技術科学大学や豊橋技術科学大学が多いほか、地元北海道の国立大学にも毎年6〜7人程度が進学しています。
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