高専に入学する学生と卒業後の進路から地方の状況を考える

高専卒業後の進路

高専は全国に58校あり、その中には国立・公立・私立という設置者の違い、そして工業高専と商船高専という分野の違いがあります。
中でも高専の大半を占める「国立工業高専」は全国に47校あり、ほとんどの都道府県に設置されています。
国立工業高専は学費などの面で誰でも通いやすく、また卒業後は仕事に直結する知識や技能を身につけることができる一方、大学に進学することもできるため、どの学校も志願者を多く集めています。

国立工業高専を卒業した学生は、どの学校の卒業生であっても企業が求める一定のレベルに達していると考えられるため、企業からは人気の人材となっています。
そのため、地方の国立工業高専を卒業しても地元には残らず、東京や大阪などの都市圏にある大企業に就職する人が多くなっています。
また、高専を卒業して進学する場合にも、地方には魅力的な進学先が少なく、都市圏の大学に進学するケースが多いのが実情です。

ここでは、地方にある国立工業高専の現状として高知高専を紹介し、国立工業高専の実情から地方の学生を取り巻く状況をみていきます。

高知高専入学者の出身地

まずは、高知高専の学生の出身地を確認しましょう。
ここでご紹介するデータは、令和6年5月1日時点における本科・専攻科をあわせた学生の出身地です。

出身地人数割合
高知県75388.1%
高知県外9110.6%
海外111.3%
合計855
高知高専 本科・専攻科学生の出身地(令和6年5月1日現在)

みていただくと分かるように、高知高専に入学してくる学生の大半は高知県内の出身です。
高知高専は、四国にある国立工業高専の中ではもっとも県外出身者の割合が高くなっています。
それでも県外出身者は10%程度であり、ほとんどが高知県内から高知高専に進学しています。

高知高専の就職者数と進学者数

高知高専の場合、令和5年度卒業生の就職者数と進学者数は以下のようになっています。

ソーシャルデザイン工学科就職者数進学者数
エネルギー・環境コース192
ロボティクスコース163
情報セキュリティコース267
まちづくり・防災コース2513
新素材・生命コース207
合計10632
高知高専 就職者数と進学者数(令和5年度) ※「就職」と「進学」以外に「その他」があわせて8人いる

高知高専の令和5年度卒業生をみると、いずれのコースも就職した学生が進学した学生を大きく上回っています。
卒業生のうち就職した学生は全体の72%程度であり、就職と進学がほぼ半々というイメージとは大きくかけ離れています。

高校の場合、履修科目によっては受験できないことがありますし、資格や技能がなければ希望どおりの就職も難しいのが現実です。
そのため、就職する生徒の方が多い高校もあれば、ほとんどの卒業生が進学する高校もあります。
しかし、高専の場合は就職するか進学するかの選択に制約はないので、本来はここまで就職に偏ることはないはずです。

高知高専で就職者数の方が圧倒的に多い理由は、簡単に推し測ることはできません。
ただ、本来であれば進学を希望していたとしても、地元には適当な進学先がなく、そのために就職するという選択をしている学生がいたとしても不思議ではありません。

高知高専の就職先

高知高専を卒業した学生の約7割が就職していますが、その就職先のエリアについては以下のようになっています。

ソーシャルデザイン工学科就職者数県内就職県外就職
うち京浜うち京阪神
エネルギー・環境コース19118
22
ロボティクスコース16115
56
情報セキュリティコース26224
153
まちづくり・防災コース25619
95
新素材・生命コース20416
46
合計1061492
3522
高知高専 就職先のエリア(令和5年度)

地元の企業等に就職した学生は全体の1割程度となっており、大半は高知県外の企業等に就職していることが分かります。
また県外に就職する場合に、高知県のある四国地方や地理的に近い近畿地方などが第一候補となるわけではなく、京浜(東京・横浜)がもっとも多くなっています。

こうしてみると、県外へ進学するのが難しくても就職であれば障害はないので、豊富な求人数の中から県外への就職が主流になっているといえます。
この背景にあるのは、高知県内に高専卒業生にとって魅力的な企業が少なく、県外、それも京浜や京阪神といった大都市圏に大企業やその関連企業が多く存在している実態です。

高知高専の進学先

一方、高知高専から進学する学生は、どのような学校に進学しているのでしょうか。
令和5年度卒業生の進学先は、以下のとおりです。

学校名学校の所在地人数
筑波大学茨城県1
前橋工科大学群馬県1
東京農工大学東京都1
電気通信大学東京都1
長岡技術科学大学新潟県1
金沢大学石川県1
豊橋技術科学大学愛知県2
京都工芸繊維大学京都府1
大阪大学大阪府2
神戸大学兵庫県1
岡山大学岡山県1
徳島大学徳島県2
香川大学香川県2
高知高専専攻科高知県12
佐賀大学佐賀県1
熊本大学熊本県1
大分大学大分県1
高知高専 進学先の学校一覧(令和5年度)

進学先としてもっとも多いのは高知高専専攻科で、進学者の4割弱が進学しています。
ただ、大学へ編入学した20人の中に高知県内の大学へ進んだ人は1人もおらず、高知県と同じ四国地方にある大学に進んだ学生も4人だけです。
大学編入学の場合、関東地方や近畿地方などに偏るということはありませんが、地元にはそもそも編入先となる大学があまりないのが実情といえます。

高専は大都市に人材を送り出す役割だけでいいのか?

今回は、高知高専の学生に関するデータをみてきました。
高知高専に入学してくる学生、そして卒業後に就職・進学する学生の進路を考えると、「地元の優秀な学生が高知高専に進学し、卒業後は県外の企業に就職するか県外の大学に進学する」という大きな流れができていることが分かります。

高知高専はその設立の経緯をみると、かなり特殊な学校です。
国立高知高専は1期校としての開設は認められず、はじめは私立高知高専として1962年に開校しました。
翌年の1963年に国立高知高専が開設され、私立高知高専に在籍していた1年生の全員が国立高知高専に転入学することとされた歴史があります。
地元で活躍する若者を育成する教育機関が必要だという、高知の先人たちの思いが込められた学校だといえるのでしょう。

しかし今では、高知で教育を受けた若者が、その技能を発揮する場として高知県外の企業や大学に進んでいくのが当たり前となっています。
つまり、高知高専は大都市に人材を送り出す教育機関となっています。
地元に魅力的な企業や進学先がないのであるとすれば、それは地元で活躍したいと考えている学生にとっては非常に悲しいことですし、若者が地元を離れざるを得ない大きな要因になっているのでしょう。



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