高専を卒業して大学に編入するには、各大学で実施される編入学試験を受験し合格しなければなりません。
この編入学試験は、すべての大学で実施されているわけではなく、また同じ大学の中でも実施している学部と実施していない学部に分かれることがあります。
また、年度によって編入学試験が実施される学部・学科が変更になる可能性もあります。
編入を目指す学生のためにあらかじめ枠を設けていない大学がほとんどであり、編入する際には限られた定員を目指すこととなります。
一方で、日程さえ重ならなければ何校も受験できるので、学生には多くのチャンスがあります。
そこで、高専を卒業した学生が受験する編入学試験の実施方法をご紹介していきます。
ここでは、豊橋技術科学大学、長岡技術科学大学、難関10大学を除いた国公立大学のうち、高専からの進学者が多い大学についてご紹介します。
なお、ここでご紹介する募集要項はいずれも直近のものですが、特に断りの無い限り令和6年中に実施される編入学試験のものではないため、実際に受験を検討される場合は最新のデータを大学のホームページなどで確認して下さい。
筑波大学
筑波大学は他の大学のように学部は設置されておらず、代わりに学群に分かれています。
また、学群はさらに学類と呼ばれる専攻分野に分かれています。
令和5年4月に公表された募集要項によれば、令和6年度に編入学を実施する学群・学類は、以下のとおりです。
- 生命環境学群生物学類
- 生命環境学群生物資源学類
- 生命環境学群地球学類
- 理工学群数学類
- 理工学群物理学類
- 理工学群化学類
- 理工学群応用理工学類
- 理工学群工学システム学類
- 理工学群社会工学類
- 情報学群情報科学類
- 情報学群情報メディア創成学類
- 情報学群知識情報・図書館学類
- 医学群医療科学類
この他に医学群医学類・看護学類も編入学試験を実施していますが、高専出身者は対象に含まれていないので、ここでは取り上げません。
なお、医学群医療科学類の編入学試験は、高専で生命科学に関する学科を卒業していることが条件となります。
試験の種類 | 高専 | 短期大学 | 大学に2年以上在籍 | 学校長の推薦 |
---|---|---|---|---|
生命環境学群 | ◯ | ◯ | ◯ | |
理工学群 | ◯ | ◯ | ◯ | |
情報学群 | ◯ | ◯ | ◯ | |
医学群 | ◯ | ◯ | ◯ |
情報学群のうち知識情報・図書館学類の編入学試験では、学力検査は実施されず、口述試験が行われます。
また、医学群医療科学類の編入学試験は、学力検査ではなく小論文の試験が行われます。
これ以外のすべての学類では学力検査が行われ、推薦入試の制度はありません。
熊本大学
熊本大学の編入学試験は、大きく3つに区分されています。
1つ目は工学部の半導体デバイス工学課程のみで実施される第3年次への編入学試験です。
令和5年に実施された令和6年度の試験では、他の学科において実施される編入学試験とは別に10月に試験が実施されました。
2つ目は工学部の第3年次への編入学試験です。
こちらの試験は、推薦入試と一般入試に分けて実施されました。
3つ目は工学部の第2年次への編入学試験です。
推薦入試は行われず一般入試のみであり、募集人員はすべての学科であわせて2名程度とされていました。
試験の種類 | 高専 | 短期大学 | 大学に2年以上在籍 | 学校長の推薦 |
---|---|---|---|---|
半導体デバイス工学課程 | ◯ | ◯ | ◯ | |
3年次編入試験(推薦入試) | ◯ | ◯ | ||
3年次編入試験(一般入試) | ◯ | ◯ | ◯ | |
2年次編入試験 | ◯ | ◯ | ◯ |
募集人員が最も多い3年次編入試験のうち、推薦入試は高専出身者のみを対象としています。
そのため、高専を卒業した学生が多く熊本大学に進学する要因となっています。
千葉大学
千葉大学の編入学試験は、学校推薦枠と自己推薦枠からなります。
学校推薦枠は、高専か短大の出身者に限られる一方、自己推薦枠はより幅広い人に出願資格があります。
千葉大学では令和7年度の募集要項が令和6年1月に公表されているので、その内容を確認しておきます。
試験の種類 | 高専 | 短期大学 | 大学に2年以上在籍 | 学校長の推薦 |
---|---|---|---|---|
学校推薦枠 | ◯ | ◯ | ◯ | |
自己推薦枠 | ◯ | ◯ | ◯ |
工学部総合工学科のいずれかのコースを出願時に選択し、コースごとに選抜試験が実施されます。
コースは下記のように分かれています。
- 建築学コース
- 都市工学コース
- デザインコース
- 機械工学コース
- 医工学コース
- 電気電子工学コース
- 物質科学コース
- 共生応用化学コース
- 情報工学コース
いずれの試験枠についても、学科試験は行われません。
東京農工大学
東京農工大学は単科大学と紹介しましたが、実際は農学部と工学部の2つの学部を有しています。
高専から編入学試験を受ける人は、工学部を目指す人が多いと思われますが、農学部の受験資格もあるので、どちらもご紹介します。
農学部については、下記の4つの学科に分けて募集されます。
- 生物生産学科
- 応用生物科学科
- 環境資源科学科
- 地域生態システム学科
工学部は、下記の6つの学科に分けて募集されます。
- 生命工学科
- 生体医用システム工学科
- 応用化学科
- 化学物理工学科
- 機械システム工学科
- 知能情報システム工学科
農学部は令和6年度の募集要項しか確認できませんでしたが、工学部については2025(令和7)年度(2025年4月入学)の募集要項が公表されています。
試験の種類 | 高専 | 短期大学 | 大学に2年以上在籍 | 学校長の推薦 |
---|---|---|---|---|
農学部 | ◯ | ◯ | ◯ | |
工学部(推薦入試) | ◯ | |||
工学部(学力検査入試) | ◯ | ◯ | ◯ |
農学部と工学部の編入学試験で最も大きな違いとなっているのは、推薦入試が行われるかどうかです。
このうち、工学部の推薦入試は高専出身者だけを対象としています。
そのため、高専からの編入を考えている方にとっては、狙い目となる学部といえます。
九州工業大学
九州工業大学は、工学部と情報工学部の2つの学部を有しています。
いずれの学部も、推薦選抜と一般選抜の2つの方式により学生が選抜されます。
工学部は、下記の6つの学科に分けて学生が募集されます。
- 建設社会工学科
- 機械知能工学科
- 宇宙システム工学科
- 電気電子工学科
- 応用化学科
- マテリアル工学科
また情報工学部では、下記の5つの学科に分けて学生が募集されます。
- 知能情報工学科
- 情報・通信工学科
- 知的システム工学科
- 物理情報工学科
- 生命化学情報工学科
令和6年度の編入学試験に関する募集要項は、以下のようになっています。
試験の種類 | 高専 | 短期大学 | 大学に2年以上在籍 | 学校長の推薦 |
---|---|---|---|---|
工学部(推薦選抜) | ◯ | ◯ | ◯ | |
工学部(一般選抜) | ◯ | ◯ | ||
情報工学部(推薦選抜) | ◯ | ◯ | ◯ | |
情報工学部(一般選抜) | ◯ | ◯ | ◯ |
工学部は推薦選抜・一般選抜ともに、高専と短期大学の出身者を対象としています。
一般選抜であっても、工学部では大学に2年以上在籍した人は対象としていない点に違いがあります。
岡山大学
岡山大学では、理学部と工学部で編入学試験が行われます。
いずれの学部も推薦入試と一般入試が行われます。
理学部は下記の5つの学科に分けて学生が募集されます。
- 数学科
- 物理学科
- 化学科
- 生物学科
- 地球科学科
工学部は下記の4つの系に分けて学生が募集されます。
- 機械システム系
- 環境・社会基盤系
- 情報・電気・数理データサイエンス系
- 化学・生命系
2024(令和6)年度の募集要項の内容を確認しておきます。
試験の種類 | 高専 | 短期大学 | 大学に2年以上在籍 | 学校長の推薦 |
---|---|---|---|---|
推薦入試 | ◯ | ◯ | ||
一般入試 | ◯ | ◯ | ◯ |
理学部・工学部とも、推薦入試では高専出身者のみを対象にしています。
一方、一般入試では短期大学出身者や大学に2年以上在籍していた人も対象としています。
新潟大学
新潟大学には多くの学部が設置されていますが、高専からは、おもに理学部と工学部への編入を目指します。
理学部では主専攻を選択し、その専攻ごとに学生の選抜が行われます。
理学部の主専攻は以下のように分かれています。
- 数学プログラム
- 物理学プログラム
- 化学プログラム
- 生物学プログラム
- 地質科学プログラム
- 自然環境科学プログラム
- フィールド科学人材育成プログラム
工学部でも主専攻を選択し、専攻ごとに学生が選抜されます。
工学部の主専攻は以下のように分かれています。
- 機械システム工学プログラム
- 社会基盤工学プログラム
- 電子情報通信プログラム
- 知能情報システムプログラム
- 化学システム工学プログラム(応用化学コース・化学工学コース)
- 材料科学プログラム
- 建築学プログラム
- 人間支援感性科学プログラム
- 協創経営プログラム
また工学部では、推薦による選抜と学力試験による選抜の2つの方式による試験が実施されます。
令和6年度の募集要項における内容を確認していきます。
試験の種類 | 高専 | 短期大学 | 大学に2年以上在籍 | 学校長の推薦 |
---|---|---|---|---|
理学部 | ◯ | ◯ | ◯ | |
工学部(推薦) | ◯ | ◯ | ◯ | |
工学部(学力試験) | ◯ | ◯ | ◯ |
工学部の推薦入試は、高専出身者および短期大学出身者のみを対象としています。
理学部では推薦入試は実施されず、工学部の学力試験と同じような方法で編入学試験が実施されます。
金沢大学
金沢大学は、従来の学部に相当する「学域」、そして従来の学科に相当する「学類」ごとに学生の募集が行われます。
高専から編入を目指す学生は、融合学域あるいは理工学域が進学先になると考えられます。
融合学域の学類は以下のように分かれています。
- 先導学類
- 観光デザイン学類
- スマート創成科学類
理工学域の学類は以下のように分かれています。
- 数物科学類
- 物質化学類
- 機械工学類
- フロンティア工学類
- 電子情報通信学類
- 地球社会基盤学類
- 生命理工学類
2025(令和7)年4月の入学を目指す学生のために、令和7年度の募集要項が公表されています。
試験の種類 | 高専 | 短期大学 | 大学に2年以上在籍 | 学校長の推薦 |
---|---|---|---|---|
融合学域 | ◯ | ◯ | ◯ | |
理工学域(特別選抜) | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
理工学域(一般選抜) | ◯ | ◯ | ◯ |
融合学域では、推薦入試にあたる選抜は実施されません。
理工学域では推薦入試にあたる特別選抜と一般選抜がありますが、学科に相当する学類ごとにいずれの試験が実施されるかが異なるので、注意が必要です。
信州大学
信州大学には工学部や理学部、繊維学部、農学部があり、高専出身者が編入を目指しています。
繊維学部は他の大学にはほとんどない、非常に珍しい学部となっています。
工学部の学科は以下のように分かれています。
- 物質化学科
- 電子情報システム工学科
- 水環境・土木工学科
- 機械システム工学科
- 建築学科
理学部の学科・コースは以下のように分かれています。
- 数学科
- 理学科物理学コース
- 理学科化学コース
- 理学科地球学コース
- 理学科生物学コース
- 理学科物質循環学コース
繊維学部の学科・コースは以下のように分かれています。
- 先進繊維・感性工学科先進繊維工学コース
- 先進繊維・感性工学科感性工学コース
- 機械・ロボット学科機能機械学コース
- 機械・ロボット学科バイオエンジニアリングコース
- 化学・材料学科
- 応用生物科学科
農学部農学生命科学科のコースは以下のように分かれています。
- 生命機能科学コース
- 動物資源生命科学コース
- 植物資源科学コース
- 森林・環境共生学コース
令和6年度の募集要項の内容を確認していきます。
試験の種類 | 高専 | 短期大学 | 大学に2年以上在籍 | 学校長の推薦 |
---|---|---|---|---|
工学部(推薦選抜) | ◯ | ◯ | ◯ | |
工学部(一般選抜) | ◯ | ◯ | ||
理学部 | ◯ | ◯ | ◯ | |
繊維学部 | ◯ | ◯ | ◯ | |
農学部 | ◯ | ◯ | ◯ |
工学部では、推薦選抜と一般選抜の2種類の試験が実施され、このうち推薦選抜は高専出身者のみを対象にしています。
広島大学
広島大学も多くの学部が設置されている総合大学です。
すべての学部が編入学試験を実施しているわけではないので、よく確認しておく必要があります。
理学部の学科は以下のように分かれています。
- 数学科
- 物理学科
- 化学科
- 生物化学科
- 地球惑星システム学科
工学部では学科に代わる類が設けられており、以下のように分かれています。
- 第一類(機械・輸送・材料・エネルギー系)
- 第二類(電気電子・システム情報系)
- 第三類(応用化学・生物工学・化学工学系)
- 第四類(建設・環境系)
生物生産学部生物生産学科では、以下のようなプログラムに分かれています。
- 水圏統合科学プログラム
- 応用動植物科学プログラム
- 食品科学プログラム
- 分子農学生命科学プログラム
令和6年度の募集要項の内容を確認しておきます。
試験の種類 | 高専 | 短期大学 | 大学に2年以上在籍 | 学校長の推薦 |
---|---|---|---|---|
理学部 | ◯ | ◯ | ◯ | |
工学部 | ◯ | ◯ | ◯ | |
生物生産学部 | ◯ | ◯ | ◯ | |
情報科学部 | ◯ | ◯ | ◯ |
いずれの学部も推薦入試にあたる試験は実施されていません。
また、高専出身者のみを対象とする試験も行われていません。
募集要項の内容を確認して今後の進路のイメージをしておこう
過年度のものも含めて編入学試験の募集要項をご紹介したのは、高専を卒業した後、どのような大学に編入しているかを実際にイメージしてもらうためです。
高専出身者だけを対象にした編入学試験も実施されており、国立大学からも高い評価を得ていることが分かります。
これから高専入学を考えている中学生やその保護者の方は、高専卒業後にどのような進路を選択するのかもイメージしながら高専を受験するといいでしょう。
なお、今回ご紹介した募集要項は、あくまで当該年度の編入学試験の実施状況に基づいて作成されたものです。
編入学試験の実施の有無は、大学の定員充足状況によるため、編入学試験が実施されない可能性もあります。
必ず最新の募集要項を確認し、自身の将来の進路を考えてみましょう。
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