高専といえば機械や電気、情報といった工業高専を真っ先に思い浮かべる方が多いと思います。
しかし、高専には工業高専以外に商船高専という、おもに航海士や機関士を養成する商船高専もあります。
この商船高専は、成り立ちも学ぶことのできる分野も、工業高専とは大きく違ったものとなっています。
全国に4校しかない商船高専について、知られざるその中身を探っていきたいと思います。
商船高専の成り立ち
2022年現在、全国に4校ある国立商船高専、正式には商船高等専門学校は、1967年に今のような高等専門学校となりました。
それまではいずれも国立商船高等学校として、文部省所管の高校として存在していました。
つまり、1967年に一斉に高専が設置され、それまでの在校生の卒業と同時に、高校は廃止されたのです。
2022年時点で存在している商船高専は、以下の4校です。
・鳥羽
・広島
・大島
・弓削
また、富山高専には商船学科が設置されています。
これは2009年に旧富山商船高専が旧富山工業高専と統合され、新たにできた富山高専に商船学科が置かれたものです。
国立商船高等学校となるまでの沿革は、以下のとおりです。
(戦前)日本各地に公立・私立の商船学校が設置される
商船学校は、1899年に公布された実業学校令に基づいて設置された学校です。
商船高専に発展した富山・鳥羽・広島・大島・弓削の5校のほか、函館・隠岐・児島・粟島・佐賀・鹿児島の各校が商船学校として存在していました。
ただし、これらの学校は徐々に統廃合が進み、1939年〜1940年にかけて、富山・鳥羽・広島・大島・粟島・弓削・鹿児島の7校が官立(国立)商船学校となり、文部省の管轄に置かれます。
その後、1942年には文部省から逓信省に、1943年には逓信省が統合された運輸通信省に、1945年には運輸通信省から改組された運輸省の所管になります。
(1946)粟島・鹿児島の2校が廃校となり、官立商船学校は5校になる
戦後すぐに2校が廃止され、富山・鳥羽・広島・大島・弓削の5校が残ります。
この5校が、現在も高専として残っていることとなります。
(1951)国立商船学校の所管が運輸省から文部省に移管される
戦後再び商船学校は文部省の管轄下に置かれ、国立商船高等学校となります。
なお、商船高等学校は本科3年+専攻科2年の計5年間にわたる教育が行われ、外航船舶職員の養成が行われていました。
(1967)国立商船高等専門学校の設置
(1971)国立商船高等学校の廃止
国立商船高等専門学校に発展する形で、国立商船高等学校は1971年にすべて廃止されました。
商船高専の概要
4校ある商船高専の所在地は以下のとおりです。
・鳥羽(三重県鳥羽市)
・広島(広島県豊田郡大崎上島町)
・大島(山口県大島郡周防大島町)
・弓削(愛媛県越智郡上島町)
また、これ以外に商船学科が設置されているのは、以下の高専です。
・富山高専射水キャンパス(富山県射水市)
このうち広島、大島、弓削の3校は、瀬戸内海の島に学校があります。
広島商船は大崎上島、大島商船は周防大島(屋代島)、弓削商船は弓削島にあり、直線距離ではそれほど離れていないのですが、車や電車で簡単に行き来できるわけではありません。
また、富山高専の商船学科は、日本側唯一の商船学科であり、貴重な存在です。
鳥羽商船は一番歴史のある学校で、現在では本州唯一の商船高専となっています。
なお、それぞれの高専には、商船学科以外の学科も設置されています。
これは、1985年に行われた国立学校設置法施行規則の一部改正によるものであり、商船高専に機械や電子などの学科が設置できるようになったためです。
現在、商船高専に設置されている学科を確認しておきましょう。
学校名 | 学科名 | 定員 |
---|---|---|
鳥羽 | 商船学科 | 40 |
情報機械システム工学科 | 80 | |
広島 | 商船学科 | 40 |
電子制御工学科 | 40 | |
流通情報工学科 | 40 | |
大島 | 商船学科 | 40 |
電子機械工学科 | 40 | |
情報工学科 | 40 | |
弓削 | 商船学科 | 40 |
電子機械工学科 | 40 | |
情報工学科 | 40 |
商船学科は実習があるため、卒業まで5年6か月かかります。
商船学科以外の学科は、工業高専に設置されている学科と同じく5年で卒業となります。
商船高専で何を学ぶ?
商船高専に設置されている学科のうち商船学科は、すべての学校で「航海コース」と「機関コース」に分かれています。
「航海コース」は海技士(航海)になるための勉強をします。
航海士になるために必要な船舶運用法、船舶力学、海事法規などを専門的に学びます。
将来的に船舶の船長を目指す人、さらに港湾管理や海事関連産業を目指す人が進みます。
「機関コース」は海技士(機関)になるための勉強をします。
船を動かすための機関=エンジンを理解し、運転や保守を行うための勉強を行います。
機械工学、機器制御などの知識を得て、船舶に限らず幅広い分野を目指す人が進みます。
また、商船学科以外の学科は、工業高専に進むのと大きな違いはありません。
それぞれの専門分野で知識を深めて、進学・就職を目指すことができるのです。
どんな人が商船高専に進むといいのか?
商船高専に進む人として真っ先に思い浮かぶのは、船舶関係の仕事に就きたいと考えている人です。
航海に関する仕事に就き、将来的は船長になりたいと考えている方、あるいは機械が好きで船舶の機器の管理や保全に関する仕事に就きたいと考えている方は、様々なルートで船員になることができますが、商船高専に進むのも1つの方法です。
商船高専に進むと、早くから専門分野の学習ができること、そして同じ志を持った同級生や先輩・後輩と一緒に学べるという点で非常に有意義な時間を過ごせるでしょう。
一方、商船学科以外の学科に進む場合は、それぞれの専門分野の学習を早くに始められる点で、ほかの高専と同様のメリットがあると言えます。
船に関する仕事とは直接関係ない分野での活躍を目指す人でも、商船高専に入学する意味は大いにあるでしょう。
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