高専卒業生の企業からの評価はどのようになっている?文部科学省によるアンケート調査の結果を分析してみよう

高専卒業後の進路

2024(令和6)年3月に、高専に関する調査研究の報告書が文部科学省から公表されました。
これは、高専卒業生の進路に関する調査を、高専、企業、卒業生、大学を対象として行い、その結果をまとめたものとなっています。

高専卒業後の進路や企業内での待遇など、高専のホームページでは確認できなかった高専卒業生の現実を垣間見ることができ、非常に興味深い内容となっています。
高校から大学に進むのとは違う高専の魅力を、この結果から分析していきましょう。

調査の概要(目的など)

高専は高等教育機関の1つとして、技術者の養成という役割を担ってきました。
一方で、高専卒業生は学位を取得できず、学位の取得のためには大学編入学や高専専攻科への進学が必要とされています。
企業からの高専卒業生の評価は高いとされる半面、学位を取得していないためにその処遇が低くなるのか、その現状を把握することがこの調査の大きな目的となっています。

高専へのアンケート調査

2023(令和5)年11月〜12月にかけて、全国にある57の高専に対してアンケート調査を実施し、このうち56の学校から回答を得ています。
なお、令和5年の時点では全国に58の高専がありますが、このうち神山まるごと高専には卒業生がいないため、このアンケート調査の対象にはなっていないものと思われます。

本科卒業生の進路

2022(令和4)年度の本科卒業生のうち56.2%が就職、24.9%が大学に編入学、15.0%が高専専攻科に進学しています。
就職先の企業の業種として最も多いのは製造業(48.7%)、ついで情報通信業(17.0%)、建設業(9.2%)となっています。
就職先の企業の規模は、1,000人以上の大企業が66.5%、つまり3人のうち2人が1,000人以上の大企業に就職しています。
(ただし、この設問については、全体の8割を超える学校が無回答としているので、実際の割合はブレる可能性があります。)

企業内での職種

就職した本科卒業生の企業内での職種は、技術者(51.5%)、その他技術系(26.6%)、研究開発設計(14.5%)の順となっています。
専攻科卒業生の場合、研究開発設計の比率が27.0%となっており、本科卒業生のほぼ倍となっていることが分かります。

学校推薦の実態

学校推薦で就職した本科卒業生の割合は78.8%となっており、非常に高い割合になっていることが分かります。
また、高専に対する企業からの求人の数は、平均1,550.4社であり、高専が学生を推薦した企業の数は、平均96.2社となっています。
なお、高専に対する企業からの求人数は、就職者1人あたり15.5社となっています。

企業へのアンケート調査

2023(令和5)年11月〜12月にかけて、高専卒業生を採用した実績のある企業として、高専機構や高専のホームページに載っていた約3,000社に対してアンケートを実施し、約22%の企業から回答を得ています。
回答した企業の業種は製造業34.2%、建設業20.4%、情報通信業15.2%の順になっています。
また、高専卒業生が1人以上在籍する企業の規模を見ていくと、100〜299人が27.3%、300〜999人が22.7%、1,000~4,999人が12.9%、5,000人以上が4.4%となっています。

ちなみに、高専卒業生の人数でみた場合、製造業の企業に在籍する高専卒業生は41.1%、建設業は14.2%、情報通信業は6.3%となり、製造業の1社あたりの採用人数が相対的に多いことが分かります。
また、企業に在籍する高専卒業生の人数を企業の規模で見ていくと、5,000人以上の企業が50.8%と過半数となっており、大企業ほど採用人数が多いことが裏付けられる結果となりました。

在籍状況

高専の本科卒業生が在籍している企業では、平均して27人以上の高専出身者が在籍しています。
特に規模の大きな企業の在籍者が多く、従業員数1,000人以上の製造業の企業の在籍人数は平均147.2人、従業員数1,000人以上の非製造業の企業の在籍人数は平均130.9人となっています。

高専卒業生の職種は、技術者(開発を除く、生産技術等)とその他の技術系が多く、それぞれ30%を超えています。
次いで研究開発設計が16.3%となっています。
ただし、従業員数300人未満の製造業の企業に限ると、研究開発設計の割合が34.5%と最も高くなっています。

採用状況

2023(令和5)年4月採用者についてみると、本科卒業生の採用は1企業あたり平均3.9人となっています。
これは、大学卒業生の16.1人より少なく、大学院修了者の2.8人をわずかに上回っています。
なお、回答した企業のうち36.7%は0人、24.2%は1人となっており、過去に採用実績がある企業でも直近の採用をほとんど行っていないケースもあることが分かります。

高専卒業生の採用方針として、毎年のように3名以上採用している企業は、全体の12.9%となりました。
従業員の多い企業ほど採用人数も多くなる傾向にありますが、従業員数1,000人以上の企業でみた場合、非製造業は52.1%が定期採用を行う一方、製造業は36.7%にとどまる結果となっています。

処遇

本科卒業生について、新卒時の給与水準を「大学学部卒と同等」としている企業は13.6%にとどまります。
これは大学学部卒と同等の給与テーブルとしている企業の割合とほぼ同程度であり、一方で46%の企業が大学学部卒より低くなるとしています。

ただし、40歳時点での給与水準が「大学学部卒と同等」とする企業は39.8%に増加しています。
なお、40歳時点では能力主義や実務経験など、学歴にとらわれない給与の決め方をしていると回答する企業が2割程度ありました。

高専卒業生と大卒者の比較

企業からみた場合に、高専本科卒業生と大学卒業生でどのような違いがあるかを聞いています。
資質・能力について、本科卒業生と大卒者が同等と回答した企業は58.8%、本科卒業生の方が能力が高いと回答した企業は15.8%、大卒者の方が能力が高いと回答した企業は8.5%となりました。
したがって、大卒者より高専卒業生の方が企業からの評価が高いといえる結果となっています。
特に「専門分野の工学的知識・技術の基礎基本」や「即戦力型の実践的技術」の面で、本科卒業生の評価が高くなっています。

卒業生へのアンケート調査

2023(令和5)年11月〜12月にかけて、全国にある57の高専の2022(令和4)年度卒業生に対してアンケート調査を実施し、このうち36の学校から788人の卒業生の回答を得ています。
なお、令和5年の時点では全国に58の高専がありますが、このうち神山まるごと高専には卒業生がいないため、このアンケート調査の対象にはなっていません。

中学校卒業後の進路に高専を選択した理由

中学校卒業後の進路として高専を選択した理由として最も多かったのは、「高専卒のほうが就職率が高いと聞いていたから」で63.2%でした。
このほか、「国立大学等の大学に編入学するため」が17.3%、「専門性を高め、専攻科を経由して大学院に進学するため」が6.9%となっています。
自身の進路について、高校に進学した生徒より、将来を見据えた選択を行っているといえるでしょう。

進学先を選択した理由

本科卒業後に専攻科に進学した学生に進学を選んだ理由を聞くと、「学士の学位を取得したかったから」という回答が59.9%と最も多くなりました。
一方で、本科卒業後に大学に編入学した学生に進学を選んだ理由を聞くと、「これまで学習した分野と同じ分野の高度な専門知識を身につけたかったから」と「高専卒よりも大卒のほうが給与が高いから」がそれぞれ50%以上の回答を得ています。

専攻科は本科の延長線上にあり、学位を取得するために進むという傾向が大きいことを表しているといえます。
一方、大学に編入学をする人は、専門知識をより深め、高い評価を得ることを目的としている傾向があるといえそうです。

大学へのアンケート調査

2023(令和5)年11月〜12月にかけて、全国にある86の国立大学に対してアンケート調査を実施し、このうち84の学校から回答を得ています。

高専からの編入を呼びかける取組の有無

国立大学のうち52.4%が編入を呼びかける取組を行っている一方で、46.4%は取組を行っていないとする結果となり、その結果は真っ二つとなりました。

なお、高専生を積極的に受け入れる理由や目的については、一般の大学からの編入生と比較した場合に、より専門的で実践的な教育を受けており理解度が高いことや、他の学生の刺激になることがあげられています。

高専を卒業した学生の評価はやはり高い!ただし企業での処遇は評価に追い付いていない面も

今回ご紹介したアンケート調査の大きな目的は、高専卒業生の企業内での処遇を明らかにすることにありました。
特に、高専生の処遇が企業内で低くなる傾向にあるので、その原因が学位の有無によるものかを分析しています。
給与テーブルを大学学部卒とは別にしている企業が多く、その要因としては学位の有無や年齢(高専卒業生の方が大学学部卒より2年早く社会に出る)が影響している可能性は高いでしょう。
ただ、給与テーブルを用いるのは初任給だけとし、その後は能力によって処遇を決定する企業が多いので、企業側も処遇で不満が出ないように苦心していることがうかがえます。
高専生の評価は全体的に高いといえるので、高専を目指す中学生にとっては心強い結果になったと考えられます。



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